値上げのお知らせが、どうしても書けなかった
値上げのお知らせが、どうしても書けなかった
値上げのお知らせが、 どうしても書けなかった。
材料費も、家賃も、 じわじわ上がってる。
数字だけ見れば、 答えはとっくに出てた。
それでも、 指が動かなかった。
やらなきゃいけないのは、 頭ではわかってた。
でも、 パソコンの前に座ると、 手が止まる。
お客さんひとりひとりの顔が、 浮かんでくるんですよね。
その一枚を、 最後はAIと一緒に書きました。
なぜ、一枚の紙が書けなかったのか
値段の話は、 お客さんとの信頼の話でもある。
うちは、開店してから一度も値上げしてこなかった。
だから今回が、初めて。
10年通ってくれてる人ほど、 申し訳なさが先に立つ。
いざ文章にしようとすると、 言い訳ばっかり並ぶんです。
「やむを得ず」
「諸般の事情により」
「何卒ご理解のほど」
書きながら、自分でも寒くなってくる。
正直、 自分の言葉じゃない。
どこかで見たような、 よそ行きの文章。
書いては消し、 書いては消し。
気づいたら、 一時間たってた。
何度やっても、 他人事みたいな文章になる。
値上げが怖いんじゃない。 お客さんに嫌われるのが、怖かった。
AIに、正直な気持ちを全部ぶつけた
きれいな文章を、 作ってほしかったわけじゃない。
まず、 自分のぐちゃぐちゃな気持ちを、 そのまま打ち込んだ。
「値上げしたい。 でも申し訳ない。 長く通ってくれてる人に、 失礼にならない言い方を考えたい」
そうしたらAI、 すぐにテンプレを返してこなかった。
逆に、 僕に聞いてきたんです。
「いくら上げるんですか」
「なぜ、その額なんですか」
「それを、お客さんに正直に伝えるつもりはありますか?」
うっ、となった。
カットを500円上げる。
その理由を、僕は自分でもちゃんと言葉にできてなかった。
材料が上がった。 人件費も上がった。 でも、それ以上に。
このまま価格を据え置くと、 仕事の質を落とすしかなくなる。
それが一番、嫌だった。
値段を据え置いたまま、 雑な仕事に逃げるくらいなら、 ちゃんと言って、ちゃんとやりたい。
そこまで言われて、やっと気づいた。
隠そうとしてたのは、 お客さんからじゃない。
自分自身からだった。
ごまかそうとするから、 言葉が濁るんですよね。
「謝る」より「ちゃんと伝える」
AIと何度かやりとりするうちに、 文章の向きが変わっていった。
まず、 謝罪から入るのをやめた。
最初の一文は「申し訳ございません」だった。
それを、ぜんぶ消した。
代わりに、 今まで通ってくれたお礼を、 先に書いた。
そして、 これからも同じ薬剤で、 同じ仕上がりを続けるための値上げだと、 理由をぼかさず書いた。
10年やってこられたのは、 あなたのおかげです。
これからも、いい仕事を続けたい。
だから、申し訳ないけど、少しだけ。
そんな順番に変えた。
不思議なもので、 隠すのをやめた瞬間、 文章が急に、自分の声になった。
読み返しても、 背伸びしてない。
いやー、 これは一人じゃ、たどり着けなかった。
お客さんは、値段そのものより、 誠実さを見てる。
出してみて、わかったこと
告知を、 店頭とメッセージで出した。
正直、 何人か離れるのは覚悟してた。
でも、 離れた人は、ほとんどいなかった。
それどころか、
「ずっと続けてね」
「むしろ今まで安すぎたよ」
そう言ってくれた人まで、いた。
20年近く通ってくれてるお客さんには、 こう言われた。
「ちゃんと言ってくれて、ありがとう」
その一言で、 肩の力が抜けました。
こっちが勝手に、 高い壁を作ってただけだった。
勘違いしてほしくないのは、 AIが文章を書いたわけじゃない、 ということ。
僕が言いたかったことを、 整理して、 背中を押してくれただけ。
怖くて動けない時、 AIは「で、本当はどうしたいの?」 と聞いてくれる。
値上げのお知らせ一枚に、 こんなに悩むとは思わなかった。
でも、 悩んだ分だけ、 お客さんに本気で向き合えた気がします。
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